『純真』2019.04.26 16:28 不夜城に降り注ぐしろい月光を薄暗い路地裏から眺めながら、天羽はゆっくりと息を吐き出した。棗がバーを開店して一ヶ月。この日が訪れる事は百も承知だった。しかし、現実は何時も想像するよりずっと辛いものだ。「サーシャ、やっん、まって────」 薄い扉の向こうから艶やかな声が微かに聞こえ...
『世界で一番美しい罪』2019.04.26 16:22 クリスマスの思い出は、何かありますか。 棗さんなら、きっと素敵な思い出があるのでしょうね────と、この時期になると必ずと言って良い程男女問わず客に聞かれる質問。繁華街から少し外れた路地裏にバーを構えてから二年と少しだが、既にもう飽き飽きしている。 何時も通り答えは、ある訳ねえ...
『この花の似合うひと』2019.04.26 16:15 サン・マルコ広場の昼下がりは、無数の人と鳩に埋め尽くされている。仕事の為このヴェネツィアに停泊して早二週間。ターゲットは最近彗星のように現れた若いマフィアのボス。トルストイ氏の依頼だから、凡そ麻薬市場に特化した人物なのだろう。その関係でトルストイ氏が疎ましく思うようなかなり無理...
『瑀琳が来た日』2019.04.26 16:05 それは、バーを開店してから二年半経った、夏も終わろうとしている頃のことだった────。「は?」 未だ寝惚け眼だった俺は、突然目の前に開いた現実に追い付く事も出来ず、玄関先でぞんざいに吐いた。剥き出しの苛立ちを一身に受けた天羽さんは得意の困り顔で俯きながらも、一向に引く気はないよ...